壊れた時計

 

 人は過去に囚われ、現在から目を背け、未来に逃げてしまう。気づくと人生は終わりに近づいている。家庭も顧みることなく、仕事という違う時間を生きた男が、定年で現実に戻り、新たな人生を刻んでいく。現代版浦島太郎の物語です。

 

壊れた時計を修理も買い替えることもせず働き続けてきた男が、部下から定年の日にもらった記念品。新たな人生を踏み出す気持ちになったら開けてと言われていたのに、寂しさから男は箱を開けてしまう。中には新しい腕時計。その針の動きに、男は自分の過去をフラッシュバックする。

 

どこで人生を間違えたのか、男は気づいたら年老いて一人となっていた。自分を浦島太郎のようだと感じた男だったが、浦島太郎の話の結末が思い出せない。ようやく思い出したのが、母の墓を訪れるシーン。男が新しい時計をつけ、母の墓を訪れることで、また時が動き出す。

 

たとえ最後の瞬間となっても、今という時間を生きなければ、そして、その時間を誰かと共有しなければ、人は幸せにはなれない。壊れた腕時計を題材に人が刻む時間を描いた作品です。